Learning By Doing

ふと、Learning By Doingについて経済学的な研究をまとめてみようと思い立った。

一般的には、Wright(1936)“Factors affecting the cost of airplanes”で学習曲線(Learning Curve)の存在が指摘されて、そこからモリモリ研究されるようになったとされていると思います。

Spence(1981)“The Learning Curve and Competition”

理論の論文。
経済学でよく参照されるのはSpence(1981)の論文だと思う。有限期でDiscountingが無い状況を想定するものの、動学モデルを綺麗に解いている。
主な結果として、「Learning-By-Doingがある場合、生産・販売をする時点の実際の費用は生産者の意思決定に関係なく、最終的にどこまでLearning-By-Doingによって費用が下がるかだけを考えて価格をつける」という、わりと驚くべき点を指摘している。
なぜそんなことが言えるのかというと、利潤が割り引かれないなら、”いま”追加的に生産したとしても、全体を通じての総費用の増分は”最後の期”に追加的に生産した場合と同じになるからである。最終的に100個作る予定だとしたら、今追加で1個作ろうが、明日追加で1個作ろうが、最終的な生産費用は101個の生産費用になるので、どの時点であろうが限界費用は100個から101個目の費用になるわけだ。
なので、ある期を考えたら、その期の売り上げは生産費用を下回っている可能性もあるが、Learning-By-Doingがあることを考えればそういうこともありえる気がする。

Dasgupta Stiglitz(1988)“Learning-by-Doing, Market Structure and Industrial and Trade Policies”

教科書とかにも載ってる、わりとよく聞くペーパー。
Learning-by-Doingあると最終的にはMonopolyになっちゃうよねーとか、産業の初期の頃は損ばっかりだよねー、とか自由貿易でも最初は保護したほうがいいよねーとか、「そりゃそうだろ」って思う結果がいっぱい書いてあるけど、ぶっちゃけ読む気が起きなくてConclusionしか読んでない。

Cabral and Riordan(1994) “The Learning Curve, Market Dominance, and Predatory Pricing”

理論の論文。
Learning-By-Doingをマルコフ完全均衡になるような状況で分析している

  • 一度競争上優位に立つとその後も優位であり続けやすい
  • 優位である期間が長ければ長いほど、その後も優位であり続けやすい

という点が主な結果で、MCを下回るPricingをして競争相手をExitさせようとするPredatory Pricingが起こり得ることについても指摘している。

BESANKO DORASZELSKI KRYUKOV SATTERTHWAITE(2010) “Learning-by-Doing, Organizational Forgetting, and Industry Dynamics”

理論の論文。
上の論文にさらにOrganizational Forgettingを入れて、それが競争を促進するか阻害するかを分析している。Benkard(2000)にMotivateされている気がします。
なんか、結局色々複雑になるんだけど、競争を促進したり、よりAggressiveなPricingをしたりするようになるんだって。上の論文の結果もモリモリ違ってくるらしいけど、モデルが複雑だから読む気が失せてほとんど読んでいない。

そんな感じの理論のペーパーたちがあるなか、経済学の実証のペーパーって意外と少ない気もするんです。やっぱり、あんまりデータが無いからでしょうか。
とりあえず、

Benkard(2000)

AERの論文で、Learning-by-Doingっていうけど、実は学ぶばっかりじゃないんだよ、やってないと忘れるんだよってことを詳細なコストデータを使って実証した論文。ロッキード社の詳細な機密コストデータをどうにか手に入れたからできたって感じでしょうか。
Learning-by-Doingによるコスト削減は有効だが、Production Rateが低いと、またコストが高くなってしまう点を指摘したので重要なのだと思う。

Benkard(2004)

ReStudのペーパー。上のペーパーのパラメータを使って、Widebodyの飛行機を寡占市場モデルでシミュレートして、どれぐらい非効率があるかとかを数値的に明らかにした論文。

Ohashi(2005) Learning by doing, export subsidies, and industry growth: Japanese steel in the 1950s and 1960s

これ僕としては結構好きなペーパーです。もっといいJournalに載ってもいいのに。
これも、Dasgupta Stiglitz的な話を実証している感じでしょうか。
日本の鉄鋼産業には輸出補助がなされていましたけど、Learning by doingがあるとモリモリ補助したほうがいい気がするじゃないですか。
じゃあ、実際どれぐらい効果あったのかってのをわりと詳細なデータを使って実証しています。


そんな感じでしょうか。適宜追加していこうと思います。