Quantity Discount

経済学をかじったことがある人ならお分かりだと思うが、「そんなの当たり前じゃん!」ということを”Reasonable”な仮定から論理的に導くことは意外と難しいことが多い。
Quantity Discount --いっぱい買うと1単位あたりの料金は安くなる-- という現象も実は”経済学的に”説明しようと思うと意外と難しいことが知られている。そんなこと当たり前に存在して、その理由なんていくらでも列挙できるような気がするが、「Under efficient bargaining the current understanding of the bargaining interface is that the size of the downstream buyer has no retail price implication(後略)」(Smith and Thanassoulis(2012))だそうだ。正確には、取引費用とか、”簡単に”Quantity Discountを説明する方法はあるんだけど、そうじゃない、もっと”経済学的な”説明をしたいってのがモチベーションだと思う。

というわけで、経済学者が”当たり前のことを説明できるようになるまでの道のり”を順を追って見ていこうかと思い立った。
とりあえず、論文を見ていく前に

American Capitalism. The Concept of Countervailing Power. Galbraith(1952)

で、いっぱい買う人は安く買えることをCountervailing Powerと呼び始めた。色んな論文で、この文献の始まり的な扱いを受けていたので、読んでないけど一応書いておく。

まず、80年代の論文からいこう。

The Welfare Effects of Third-Degree Price Discrimination in Intermediate Good Markets. Katz(1987)

潜在的な参入企業がいたとしよう。参入には固定費用がかかるとしよう。もし、すごく大きな買い手がいて、その需要をまるまる取り込めたら参入費用がまかなえるとする。そういう買い手には、Existing SellerはDiscountをあげたくなる。新規参入企業がいると損するから、その損のぶんまで割引してもその買い手を逃さないほうが特になるからだ。
っていう感じだけど、最初に思ったより説得的な議論のような気もします。でも、現実問題として、そんなに大きな買い手でなくても割引は受けている気がする。だからやっぱり少し不満が残る。

The Role of Firm Size in Bilateral Bargaining: A Study of the Cable Television Industry

ケーブルテレビ産業でのQuantity Discountにモチベートされた理論の研究。Upstreamに一企業だけいて、Downstreamに複数企業いて、他との契約を所与として、SurplusをNash Bargainingで分け合うようなモデルを考えている。
Surplus Functionの形状で色々結果が変わってくるようだし、DownstreamのMerger Incentiveみたいなものも考えている。

A Dynamic Theory of Countervailing Power. Snyder(1996) RAND

Sellerが談合しているような状況を考える。もし、すごく大きな買い手が来た場合、談合から抜け駆けしてその買い手をゲットする利益は大きくなる。そういう抜け駆けのインセンティブをなくすために、大きな買い手には安い価格をつけないといけなくなってしまう。
っていうのがストーリの動学的なモデル。

Why do larger buyers pay lower prices? Intense supplier competition. Snyder(1998) Economics Letters

上とほとんど同じ。
一応、供給側にたくさん企業がいて、そこが”競争”(といってもJoint Profitを最大化するような動学的な均衡を考えているが)していることがQuantity Discountの源泉になっているので、そこを指摘したのが重要なのかもしれない。

Exclusionary contracts and competition for large buyers. Gans and King(2002), IJIO

供給側に複数企業がいて、微妙にEconomies of Scaleがあるような状況を考える。
さらに、需要側にはLarge BuyerとSmall Buyerがいる状況を考える。
取引費用が大きくて、Large Buyerとは細かい契約を結べるが、Small BuyerにはSingle Priceを提示することしかできないような状況を考えると、Large Buyerと協力して、Large Buyerに安い価格をOfferして、一緒にSmall BuyerからRentをExtractするような均衡がある。
結果Quantity Discountが生じる。
僕の興味に一番近いかも。

Bargaining, Mergers, and Technology Choice in Bilaterally Oligopolistic Industries. Inderst and Wey(2003), RAND

理論の論文読むの飽きた。そのうち気が向いたら読む。

Group purchasing, nonlinear tariffs, and oligopoly. Marvel and Yang(2008) IJIO

同上。理論の論文は、アブスト三行読んだら内容分かるように書いて欲しいよ。

わりと最近の論文だと、

Upstream uncertainty and countervailing power. Smith and Thanassoulis(2012), IJIO

この論文では、Quantity Discount(Quantity Premium)の存在を、需要の不確実性から説明しようとしている。冒頭の引用にもあるように、Efficient Bargainingのような状況を考えると、規模の経済(規模の不経済)があったとしても、普通はなかなかQuantity Discountが生じにくい。一方、将来の需要が不確実だと、今そこに存在している需要の重要さが増す。結果として、限界費用が逓減的ならばQuantity Discountが、逓増的ならQuantity Premiumが生じるという結果を導いている。一応申し訳程度に需要の不確実性を供給側の競争によって内生化もしている。


以上もりもり理論の論文を紹介したけど、やっぱり実証の論文もいくつか。

Insurer-Hospital Bargaining: Negotiated Discounts in Post-Deregulation Connecticut. Sorensen(2003) JIE

病院と保険会社間の支払いデータを使って実証した論文。
保険会社が病院からよりDiscountを得るためには、保険会社のサイズも重要であるが、「実際にどれぐらい患者がどの病院に行くかをコントロールできるか」という点の方が重要であることを実証的に示している。保険会社はネットワークを被保険者に提供するわけだが、そのネットワークそのものが交渉力に重要であることを示す点は結構重要な気がする。

Countervailing Power in Wholesale Pharmaceuticals. Ellison and Snyder(2010) JIE

薬価を使って、実証的にQuantity Discountが供給側の競争による結果であることを示した論文。
薬の種類ごとの競争状態のバリエーション(他に代替となる薬があるか、特許の切れていない独占的な薬かどうか)と、買い手のサイズごと(個人経営の薬局か、チェーン店の薬局かなど)の薬価の違いのバリエーションを使い、「買い手のサイズが大きくなると単価が下がる」という現象が供給側に競争がある場合にしか観察されないことを実証的に示している。
供給側の競争が重要なファクターであることを示している点で重要な論文だと思う。

以上、適宜追加していくかもしれません。