Quantity Discount

経済学をかじったことがある人ならお分かりだと思うが、「そんなの当たり前じゃん!」ということを”Reasonable”な仮定から論理的に導くことは意外と難しいことが多い。
Quantity Discount --いっぱい買うと1単位あたりの料金は安くなる-- という現象も実は”経済学的に”説明しようと思うと意外と難しいことが知られている。そんなこと当たり前に存在して、その理由なんていくらでも列挙できるような気がするが、「Under efficient bargaining the current understanding of the bargaining interface is that the size of the downstream buyer has no retail price implication(後略)」(Smith and Thanassoulis(2012))だそうだ。正確には、取引費用とか、”簡単に”Quantity Discountを説明する方法はあるんだけど、そうじゃない、もっと”経済学的な”説明をしたいってのがモチベーションだと思う。

というわけで、経済学者が”当たり前のことを説明できるようになるまでの道のり”を順を追って見ていこうかと思い立った。
とりあえず、論文を見ていく前に

American Capitalism. The Concept of Countervailing Power. Galbraith(1952)

で、いっぱい買う人は安く買えることをCountervailing Powerと呼び始めた。色んな論文で、この文献の始まり的な扱いを受けていたので、読んでないけど一応書いておく。

まず、80年代の論文からいこう。

The Welfare Effects of Third-Degree Price Discrimination in Intermediate Good Markets. Katz(1987)

潜在的な参入企業がいたとしよう。参入には固定費用がかかるとしよう。もし、すごく大きな買い手がいて、その需要をまるまる取り込めたら参入費用がまかなえるとする。そういう買い手には、Existing SellerはDiscountをあげたくなる。新規参入企業がいると損するから、その損のぶんまで割引してもその買い手を逃さないほうが特になるからだ。
っていう感じだけど、最初に思ったより説得的な議論のような気もします。でも、現実問題として、そんなに大きな買い手でなくても割引は受けている気がする。だからやっぱり少し不満が残る。

The Role of Firm Size in Bilateral Bargaining: A Study of the Cable Television Industry

ケーブルテレビ産業でのQuantity Discountにモチベートされた理論の研究。Upstreamに一企業だけいて、Downstreamに複数企業いて、他との契約を所与として、SurplusをNash Bargainingで分け合うようなモデルを考えている。
Surplus Functionの形状で色々結果が変わってくるようだし、DownstreamのMerger Incentiveみたいなものも考えている。

A Dynamic Theory of Countervailing Power. Snyder(1996) RAND

Sellerが談合しているような状況を考える。もし、すごく大きな買い手が来た場合、談合から抜け駆けしてその買い手をゲットする利益は大きくなる。そういう抜け駆けのインセンティブをなくすために、大きな買い手には安い価格をつけないといけなくなってしまう。
っていうのがストーリの動学的なモデル。

Why do larger buyers pay lower prices? Intense supplier competition. Snyder(1998) Economics Letters

上とほとんど同じ。
一応、供給側にたくさん企業がいて、そこが”競争”(といってもJoint Profitを最大化するような動学的な均衡を考えているが)していることがQuantity Discountの源泉になっているので、そこを指摘したのが重要なのかもしれない。

Exclusionary contracts and competition for large buyers. Gans and King(2002), IJIO

供給側に複数企業がいて、微妙にEconomies of Scaleがあるような状況を考える。
さらに、需要側にはLarge BuyerとSmall Buyerがいる状況を考える。
取引費用が大きくて、Large Buyerとは細かい契約を結べるが、Small BuyerにはSingle Priceを提示することしかできないような状況を考えると、Large Buyerと協力して、Large Buyerに安い価格をOfferして、一緒にSmall BuyerからRentをExtractするような均衡がある。
結果Quantity Discountが生じる。
僕の興味に一番近いかも。

Bargaining, Mergers, and Technology Choice in Bilaterally Oligopolistic Industries. Inderst and Wey(2003), RAND

理論の論文読むの飽きた。そのうち気が向いたら読む。

Group purchasing, nonlinear tariffs, and oligopoly. Marvel and Yang(2008) IJIO

同上。理論の論文は、アブスト三行読んだら内容分かるように書いて欲しいよ。

わりと最近の論文だと、

Upstream uncertainty and countervailing power. Smith and Thanassoulis(2012), IJIO

この論文では、Quantity Discount(Quantity Premium)の存在を、需要の不確実性から説明しようとしている。冒頭の引用にもあるように、Efficient Bargainingのような状況を考えると、規模の経済(規模の不経済)があったとしても、普通はなかなかQuantity Discountが生じにくい。一方、将来の需要が不確実だと、今そこに存在している需要の重要さが増す。結果として、限界費用が逓減的ならばQuantity Discountが、逓増的ならQuantity Premiumが生じるという結果を導いている。一応申し訳程度に需要の不確実性を供給側の競争によって内生化もしている。


以上もりもり理論の論文を紹介したけど、やっぱり実証の論文もいくつか。

Insurer-Hospital Bargaining: Negotiated Discounts in Post-Deregulation Connecticut. Sorensen(2003) JIE

病院と保険会社間の支払いデータを使って実証した論文。
保険会社が病院からよりDiscountを得るためには、保険会社のサイズも重要であるが、「実際にどれぐらい患者がどの病院に行くかをコントロールできるか」という点の方が重要であることを実証的に示している。保険会社はネットワークを被保険者に提供するわけだが、そのネットワークそのものが交渉力に重要であることを示す点は結構重要な気がする。

Countervailing Power in Wholesale Pharmaceuticals. Ellison and Snyder(2010) JIE

薬価を使って、実証的にQuantity Discountが供給側の競争による結果であることを示した論文。
薬の種類ごとの競争状態のバリエーション(他に代替となる薬があるか、特許の切れていない独占的な薬かどうか)と、買い手のサイズごと(個人経営の薬局か、チェーン店の薬局かなど)の薬価の違いのバリエーションを使い、「買い手のサイズが大きくなると単価が下がる」という現象が供給側に競争がある場合にしか観察されないことを実証的に示している。
供給側の競争が重要なファクターであることを示している点で重要な論文だと思う。

以上、適宜追加していくかもしれません。

Second Degree Price Discrimination

なんとなく、価格差別の実証の論文でもまとめてみようと思います。

まず、

A guide to the pitfalls of identifying price discrimination. Lott and Roberts (1991)

経済学者は、”同じもの”に見える財に異なる価格がついていると、「価格差別だ!独占力を行使している!」って思いたがるけど、実際にそうだと断定するのは難しい。
この論文では、ガソリン小売、レストランのランチ/ディナー価格差、映画館の高いポップコーンを例に、「みんながSecond Degree Price Discriminationとして説明したい現象っていうのは、単にUnobservedなCostにドライブされてるだけですよ。適当なモデルを書いて適当に実証するやつは死ね!」っていうメッセージを発信している。

Package size and price discrimination in the paper towel market. Cohen(2008)

この論文では、ペーパータオルの価格付けがNon-linearな点に注目して、差別化された財が寡占状況で取引される市場の第二種価格差別について色々調べている。5個入り100円だけど、10個入り150円みたいになってるけど、一個ずつバラで売らなきゃダメだってしたら、社会厚生はどうなるのか?とか、そういう反実仮想ができたら嬉しいわけです。

基本的にはBLPの手法を用い(ベルトラン均衡を仮定す)ることで、各財の限界費用が推定できる。そこから、価格差別がCost Drivenなのか、Strategic Pricing Drivenなのかもわかるし、Lott and Roberts (1991)の論文の批判にも耐えているっていう主張になってる。実際、推定値を見ると、後者になっているし、第二種価格差別の構造推定のいい論文だろ!って感じの主張です。色々反実仮想もしてます。
マーケットレベルのデータだけを使っているので、データの汎用性は高いところは好感が持てます。
反実仮想では、一個ずつしか売れないときと、パックの個数は自由だけどUnit Priceを一定にしないといけない状況を考えています。
どちらの場合も社会厚生は価格差別があったときの方が高く、消費者余剰も価格差別があったときの方が高いようです。

Estimating Demand for Local Telephone Service with Asymmetric Information and Optional Calling Plans. Miravete(2002)

電話の通話料のメニューってだいたい、最初にいくつかあるうちのプランから選んで、それに収まらなかったりすると別で追加の通話料がかかったりするっていう設定になってるじゃないですか。
消費者に”どれぐらい電話すると思うか”っていうタイプがあって、さらにメニューを選んだ後に”実際にどれぐらい電話するか”っていう不確実性が実現するようなモデルを考え、電話会社(独占)がどんなNon-linear Pricingをするかっていう問いに答えるペーパー。
小奇麗なモデルを書いて、上手いこと構造推定していて、カッコいいですね。
実際の各消費者の電話使用状況というマイクロデータを使っていて、「実際にどれぐらいの人がどういうプランを選んだか、さらにその選んだ人たちが実際にはいくら払ったか」まで見えるので、細かい複雑なモデルが推定できているようです。

Quality-Based Price Discrimination and Tax Incidence: Evidence from Gasoline and Diesel Cars. Verboven(2002)

わりとよく見るスクリーニングのモデルを実証した感じ。ディーゼルとガソリンっていう二つのタイプが”品質”の高低になっていて、独占企業がどれぐらいの距離乗るかっていうタイプをスクリーンしながらPrice Discriminateしてるぜっていう主張をしてます。
欧州各国の
売り上げ、(メーカー小売希望)価格,車やガソリン・ディーゼルへの税金,実際の運転距離の分布(ランダムサンプルからきてるっぽい)などのデータを使って、High Typeは距離あたりの燃料価格の安いディーゼル車をかって、Low Typeはガソリン車を買うようなスクリーニングモデルを書いて実証しています。
一応推定結果をみると、「独占企業が価格差別をしている」は棄却しないけど、「競争的な価格付けがなされている」は棄却されるみたいです。
実はちゃんと読んでいないので、どういうデータのバリエーションから上の結論を得ているのかよく分からなかったのですが、たぶん、「需要の価格弾力性は国ごとに違う。一方、同じ車であれば生産費用は同じ。」っていう仮定をつかっている気がするんですけど、Lott and Roberts (1991)の批判に答えているのかは謎ですね。

Price Discrimination and Retail Configuration. Shepard(1991)

ガゾリンの価格付けを使って寡占状況のスクリーニングのモデルを実証した論文。
コストDrivenじゃなくて、Willingness-to−Payでソートされてるぜってことも主張している。
まぁ、一応Lott and Roberts (1991)へのディフェンスもあるんだけど、Cost Drivenじゃないことを説得するには弱い気もする。というか、Lott and Roberts (1991)がこれを念頭に書かれているのではないかと思うほどだ。

Competition and Price Discrimination in Yellow Pages Advertising. Busse and Rysman(2005)

イエローページ(日本でいうタウンページ?)の広告費のNon-linear Pricingについての誘導形の論文。
競争が促進されると価格が下がるっていうのは一般的に成立することな気がするけど、価格メニューがあるとその影響って一様じゃなさそうだよね。実際どうなの?ってのがQuestionです。
結果としては、競争が激しくなるほど、大口の広告の価格が下がるみたいです。

Inference on vertical contracts between manufacturers and retailers allowing for nonlinear pricing and resale price maintenance. Bonnet and Dubois(2010)

Upstreamの会社とDownstreamの会社があって、製造→流通→消費までを含んだモデルを、家計レベルのデータを使って実証した論文。読んでて実は家計レベルのデータである必要はないように感じたので、実はマーケットレベルか、Retailレベルのデータでもいい気がする。
フランスのミネラルウォーターに関して、

  • 製造会社も流通会社も普通のLinear Pricingをしている(Double Marginalization)
  • 製造会社はTwo Part Tariffを使って卸値を決めている
  • 製造会社はTwo Part Tariffを使って卸値を決めているし、流通会社の売値にも影響力を持っている

っていうモデルのどれがもっともらしいかを、お決まりの「需要をBLP+流通部分はベルトラン競争」からテストしている。
構造推定の論文なので、製造側が合併したらどうなるかとか、Retail Priceを規制するような法律があったりなかったりしたらどうかっていう厚生への帰結も調べている。

Vertical Relationships between Manufacturers and Retailers: Inference with Limited Data. Villas-Boas(2007) & Identification of supply models of retailer and manufacturer oligopoly pricing. Villas-Boas and Hellerstein(2007)

一応、最近の一連の推定に使われるモデルの最初っぽいペーパーをまとめておきます。
マーケットレベルのデータしかないなかから、いかにどういうモデルが尤もらしいかというのをテストする方法・条件を明らかにしたペーパーです。
基本的には

  • 需要関数が独立に推定できるようなExclusion Restrictionがある
  • 生産者が色々物を作っていたとしても、製造コストはプロダクトごとにAdditively Separableである

っていう条件が重要になってきます。
2007年の論文では、アメリカのヨーグルト市場のマーケットレベルデータをつかって、ManufacturerとRetailerの間の取引の価格付けがどんなモデルが尤もらしいかをテストしている。具体的には

  • Uniform Priceがある。
  • Two Part Tariffになってる
  • Manufacturerが談合している
  • Retailer が談合している
  • Single Monopolistが市場全体の価格を決めている

というモデルを考えている。
Two Part Tariffも、Manufacturerが限界価格は限界費用にして固定費として利益を吸い上げる場合と、Retailerが限界費用でPricingするけどフランチャイズ費とかで利益を吸い上げる場合が考えられている。
推定結果を見ると、Double Marginalizationは棄却されて、生産者がMCでPricingしてるモデルがもっともらしいようです。

Vertical Contracts in the Video Rental Industry. MORTIMER(2008)

他のペーパーと違って、UpstreamとDownstreamの契約が実際に見えているようなデータを使って、Single Priceで卸すか、なにかしらのRevenue Sharingな契約で卸すかでの社会厚生の違いを構造推定で明らかにしている。
(おいおいちゃんと追加する予定)

他にも随時更新して行こうと思います。

Learning By Doing

ふと、Learning By Doingについて経済学的な研究をまとめてみようと思い立った。

一般的には、Wright(1936)“Factors affecting the cost of airplanes”で学習曲線(Learning Curve)の存在が指摘されて、そこからモリモリ研究されるようになったとされていると思います。

Spence(1981)“The Learning Curve and Competition”

理論の論文。
経済学でよく参照されるのはSpence(1981)の論文だと思う。有限期でDiscountingが無い状況を想定するものの、動学モデルを綺麗に解いている。
主な結果として、「Learning-By-Doingがある場合、生産・販売をする時点の実際の費用は生産者の意思決定に関係なく、最終的にどこまでLearning-By-Doingによって費用が下がるかだけを考えて価格をつける」という、わりと驚くべき点を指摘している。
なぜそんなことが言えるのかというと、利潤が割り引かれないなら、”いま”追加的に生産したとしても、全体を通じての総費用の増分は”最後の期”に追加的に生産した場合と同じになるからである。最終的に100個作る予定だとしたら、今追加で1個作ろうが、明日追加で1個作ろうが、最終的な生産費用は101個の生産費用になるので、どの時点であろうが限界費用は100個から101個目の費用になるわけだ。
なので、ある期を考えたら、その期の売り上げは生産費用を下回っている可能性もあるが、Learning-By-Doingがあることを考えればそういうこともありえる気がする。

Dasgupta Stiglitz(1988)“Learning-by-Doing, Market Structure and Industrial and Trade Policies”

教科書とかにも載ってる、わりとよく聞くペーパー。
Learning-by-Doingあると最終的にはMonopolyになっちゃうよねーとか、産業の初期の頃は損ばっかりだよねー、とか自由貿易でも最初は保護したほうがいいよねーとか、「そりゃそうだろ」って思う結果がいっぱい書いてあるけど、ぶっちゃけ読む気が起きなくてConclusionしか読んでない。

Cabral and Riordan(1994) “The Learning Curve, Market Dominance, and Predatory Pricing”

理論の論文。
Learning-By-Doingをマルコフ完全均衡になるような状況で分析している

  • 一度競争上優位に立つとその後も優位であり続けやすい
  • 優位である期間が長ければ長いほど、その後も優位であり続けやすい

という点が主な結果で、MCを下回るPricingをして競争相手をExitさせようとするPredatory Pricingが起こり得ることについても指摘している。

BESANKO DORASZELSKI KRYUKOV SATTERTHWAITE(2010) “Learning-by-Doing, Organizational Forgetting, and Industry Dynamics”

理論の論文。
上の論文にさらにOrganizational Forgettingを入れて、それが競争を促進するか阻害するかを分析している。Benkard(2000)にMotivateされている気がします。
なんか、結局色々複雑になるんだけど、競争を促進したり、よりAggressiveなPricingをしたりするようになるんだって。上の論文の結果もモリモリ違ってくるらしいけど、モデルが複雑だから読む気が失せてほとんど読んでいない。

そんな感じの理論のペーパーたちがあるなか、経済学の実証のペーパーって意外と少ない気もするんです。やっぱり、あんまりデータが無いからでしょうか。
とりあえず、

Benkard(2000)

AERの論文で、Learning-by-Doingっていうけど、実は学ぶばっかりじゃないんだよ、やってないと忘れるんだよってことを詳細なコストデータを使って実証した論文。ロッキード社の詳細な機密コストデータをどうにか手に入れたからできたって感じでしょうか。
Learning-by-Doingによるコスト削減は有効だが、Production Rateが低いと、またコストが高くなってしまう点を指摘したので重要なのだと思う。

Benkard(2004)

ReStudのペーパー。上のペーパーのパラメータを使って、Widebodyの飛行機を寡占市場モデルでシミュレートして、どれぐらい非効率があるかとかを数値的に明らかにした論文。

Ohashi(2005) Learning by doing, export subsidies, and industry growth: Japanese steel in the 1950s and 1960s

これ僕としては結構好きなペーパーです。もっといいJournalに載ってもいいのに。
これも、Dasgupta Stiglitz的な話を実証している感じでしょうか。
日本の鉄鋼産業には輸出補助がなされていましたけど、Learning by doingがあるとモリモリ補助したほうがいい気がするじゃないですか。
じゃあ、実際どれぐらい効果あったのかってのをわりと詳細なデータを使って実証しています。


そんな感じでしょうか。適宜追加していこうと思います。

Price Discrimination

Handbook of Industrial Organization
Volume 3, 2007
Chapter 34 Price Discrimination and Competition
の中から、2nd Degree Price Discriminationについて。

そもそも、1st degree, 2nd degree, 3rd degreeってなんて訳すのでしょうか。ここでは、第○種価格差別で行こうと思います。
一応念のため

  1. 第一種価格差別:財の売り手が、「買い手が支払ってもいい最大の金額」を完全に把握していて、かつ買い手ごとに異なる価格を提示できる
  2. 第二種価格差別:財の売り手は、買い手の特徴やIdentityによっては異なる価格を提示できないが、財の個数(や品質)と価格の組み合わせを非線形にして提示できる
  3. 第三種価格差別:財の売り手は、買い手のIdentityによって異なる価格を提示することはできないが、買い手の特徴(性別、年齢、地域など)によって異なる価格を提示できる

第一種の例はよくわからないですが一対一の交渉で足元見られる状況でしょうか。第二種の例としては新幹線のグリーン車・普通車とか、お酒の一升瓶・四合瓶、まとめ買い割引とかですかね。第三種の例としては、映画館のチケットとかネットの映像配信の地域制限とか。

まず、第三種価格差別では、財の配分が非効率になりえることが知られています。
たとえば、映画のチケット。
大人1500円、学生1000円だとしましょう。
空席が一つあり、1100円まで払ってもいい学生と、1200円まで払ってもいい大人がいたとしたら、後者にチケットをあげるのが効率的です。一方、実際にはチケットは前者に買われることになるので、財の効率という面だけ見ると第三種価格差別は非効率を生む可能性がある。
もちろん、第三種価格差別が許される状況とそうでない状況を比べてどちらが効率的かという問題は別の問題だ。
独占企業が供給する場合、「第三種価格差別が許される状況の方が社会的に望ましい」only if 「第三種価格差別が許される状況の方が生産量が大きくなる」が成立することが知られている。
映画館の例でいうと、もし学割を禁止したとしても、大人の価格弾力性が十分に小さければ(1400円にしてもあんまり映画に行く人は増えないし、1600円にしてもあんまり映画に行く人が減らない状況)、独占企業にとって利潤を最大化する価格は結局全員に1500円を提示することかもしれなくて、その場合第三種価格差別を禁止しても結局学生(と企業)が損するだけだ。
価格差別を許したときに、財の供給が増える場合にのみ、社会厚生が増加する場合がある。(上の例だと第三種価格差別を許したほうが供給が増えているので、社会厚生が増加している可能性がある。)


一方、第二種価格差別では、企業は価格と数量のメニューを提示するだけで、買い手が自分の好みに合わせて自己選択するような状況を考える。なんか色々分類あるみたいですね。知らなかった。
まず、一つの分類として、買い手は何人の売り手と取引するか

  1. 一人一社からしか買わない Exclusive Agency
  2. 一人複数社から買う Common Agency

さらに、財の個数や品質に対する評価が全員同じで程度が違う(財が二つあったとき、どっちの財が欲しいかで全員の意見が一致する)のか、そもそも好みの方向が人によって違う(二つ財があったとき、Aの方が好ましい人もいれば、Bの方が好ましい人もいる)のかという違いがある。  u^j(q,\theta) をタイプθの人が企業jの品質(or個数)qの財を買ったときの効用とすると、

  1. Vertical Heterogeneity :  u^j(q,\theta) is increasing in θ for each j
  2. Horizontal Heterogeneity:  u^j(q,\theta) is monotonic in θ for each j, but the direction varies across firms

って分類があります。

ただ、セッティングによって色々結果がありすぎて、いまいち全容がつかめないです。全部の特徴を全部含んだようなモデルがあればいいんだけど、普通に理論的にも難しくてよくわからないみたいです。いわんや実証の僕に分かるわけがない。

”普通の”第二種価格差別では、一般に品質が下方に歪みが生じるっぽいです。正確には、社会的に効率的な水準より供給される品質が低くなってしまう。タイプθの人が買う品質をqとすると、  \frac{\partial u^j(q,\theta)}{\partial q} とqを上げるマージナルコストが等しければ社会的に望ましいわけだが、前者の方が大きくなってしまう。これは、タイプθの人が自己選択するためのインセンティブ条件を満たしながら、供給者が利益を最大化しようすることでおこる。タイプが低い人には微妙に品質が悪い財を供給することでタイプが高い人が自分でいい品質で高い商品を選ぶように誘導することが利益最大化にとっては望ましく、結果Downward Distortion in quality allocationが起こってしまう。

普通は、財の配分が非効率になるようなことはないのだが、前の日記 http://d.hatena.ne.jp/econometrica/20130205 に書いたDana(1998,JPE)では、第二種価格差別でもAllocationでのInefficiencyが生じることを示している。

もっとまとめようと思ったけど、色々ありすぎて全然まとめることができる気がしないので、もうやめます。

一物一価にならない価格差別

需要に不確実性があり、不確実性が実現する前に生産と価格付けを行わなければいけないような場合、一物一価が成立しないことがある。

例えば

  1. 確率50%で需要は10単位、確率50%で20単位
  2. 価格弾力性は0で、価格10以下なら買う、それ以上なら買わないという消費者しかいない
  3. 限界費用は1
  4. 「参入による利益が0になる」という条件を均衡条件としてモデルを解く
  5. 消費者には適当に購買の優先順位がつけられ、優先順位が高い人は安いほうから買っていく。
  6. 生産者は需要の不確実性が実現する前に生産を行い、価格もそのときに提示する

という状況を考える。

均衡では、

  1. 10単位分には価格1が付けられる
  2. もう10単位分には価格2が付けられる

という結果になる。
つまり、市場にいくと、同じ物なのに10個には価格1がついており、他の10個には価格2がついているという一物一価が崩れる状況になっている。

これが均衡になることをみよう。まず、新規参入するインセンティブがないことは明らかだろう。新しく生産したとしても、

  1. 1以下の価格を付けても利益は0である。
  2. 1
  3. p>2の価格を付けた場合は、常に売れ残るので利益は-1。

一方、現状の生産者が今の価格から価格を下げる方向に逸脱すると損する。逆に、現状から価格を上げる方向に逸脱すると利益が正の値になるが、その場合「参入による利益が0になる」という均衡条件を満たさない。

こういうモデルは均衡で一物一価が成立しない&そのことにより分配や生産で非効率が起きうるという可能性を指摘する文脈でたまに見られるみたいです。

始まりは、Prescott(1975 JPE)のEfficiency of the Natural RateにあるExampleが最初の気がします。
ただ、彼の例や上の例では別に非効率な部分は出てこない。

非効率が生じることを指摘したのはDana(1998 JPE)のAdvance‐Purchase Discounts and Price Discrimination in Competitive Marketsのような気がしている。
この論文では、消費者にタイプを導入してLow valuationな消費者とHigh Valuationな消費者がいて、それぞれ需要の不確実性の程度が異なるような状況を想定し、企業も需要の不確実性が実現する前に事前販売できるような状況を考えている。
簡単に説明すると、もし財に対する評価が低い消費者の方が不確実性が低ければ、事前購入では「財に対する評価が高い消費者は買わないが低い消費者は買う」という可能性がある。そのため、需要が実現した時点でみると評価が高い消費者に分配したほうがよかったにも関わらず、実際は事前の意味で高い評価をしていたLow valuationな消費者に分配されてしまうという非効率性が生じる。

一物一価は競争均衡の帰結のように思いがちだが、実際にはモデルに依存した結果であって、「競争的であれば一物一価になる」という命題は論理的な帰結ではなく、実証的に確かめるべき性質のものみたいです。

Nonparametric Kernel Regression Subject to Monotonicity Constraints

Peter Hall and Li-Shan Huang
The Annals of Statistics
Vol. 29, No. 3 (Jun., 2001), pp. 624-647

自分で使うかもしれないから読んだ論文。
この前もうちの大学でカンファレンスがありましたが、関数の形状に制約があるような下でのノンパラメトリックな推定って流行っているようです。

この論文のように単調性であったり、経済学っぽい話だとスルツキー行列が半負値という条件の下での需要関数の推定など。
経済学のモデルが導く形状への制約を最大限に使うっていう方向でもりもり発展していくのではないかと思ってます。


単調性のもとでNonparametric Regressionをするとき、一番メジャーな方法は「ノンパラメトリックに推定した関数が単調になるようにサンプルを選ぶ」っていう感じだと思います。y=f(x)+εっていう関数を単調増加っていう条件のもとで推定したいとしても、実際のデータ上では、xがすごく大きいけどyの値が小さいっていうデータは出てきうる。何らかの基準のもとで、実際に使うデータを選んで(xがすごく大きいけどyの値が小さいデータやxが小さいけどyが大きいデータを無視して)推定するっていう感じです。

この論文では、通常のカーネル推定の方法を拡張して、単調性を入れれるようにしている。
たとえば、
 g(x)\equiv E(Y|X=x)
という関数を推定したいとき、適当なAをとって、
 \hat{g}(x)=n^{-1} \sum A_i(x)Y_i
という風に推定するのが一般的だが(カーネル推定も含まれる)、各サンプルに割り振るウェイトを1/nでなく、p_iとし、
 \hat{g}(x|p)= \sum p_i A_i(x)Y_i
と書くこともできる。
ここで、p_iを
 \hat{g}'(\cdot |p)\geq 0
という制約の元で、一様分布
 p^{uni}=(1/n,....,1/n)
との距離を最小にするように選び、そのargminで出てくるpをつかってgを推定する。

これで、定義から単調性は担保されるし、Consistencyやなんやらも証明される。
直感的には、単調性をViolateするようなサンプルに小さい確率を割り振ることで単調性を確保しつつ、一様分布との乖離をPunishすることでConsistentな推定を可能にしているっていうことでしょうか。

僕が少しブートストラップ法や経験尤度を勉強したからか、すごくシンプルかつ直感的な方法に思えるし、すごくいい論文だと思った。実際のインプリメントするのも難しくなさそうだ。

The Role of Information in U.S. Offshore Oil and Gas Lease Auction

Robert H. Porter
Econometrica
Vol. 63, No. 1 (Jan., 1995), pp. 1-27

ちゃんと読んでないんだけど、Common Value Auctionの実証といえばこの論文っていう気がします。

米国沿岸の海底資源の開発権をAuctionでAllocateするような状況を考える。
よって、

  • 不可分財
  • 共有価値オークション

っていう状況が妥当なのだと思う。

面白いと思った結果をまとめると、

  • Informed BidderとUninformed Bidderの違い

情報があるBidderと情報のないBidderがデータからわかる。それを使って、

  1. 情報のない方がLess Likely to participate(でも、Participateする。)
  2. Bid distもDominateされてる
  3. 情報ないBidderは0プロフィット
  4. 分布の上の方では両者のBid distは一緒
  5. 情報のないBidderの人数は関係ない

など。

今回はホントに自分のメモ代わり。