Ministerial weights and government formation: Estimation using a bargaining model
T Adachi, Y Watanabe - Journal of Law, Economics, and Organization, 2007 - Oxford Univ Pres

1年目の詰め込み教育も終わって、2年目以降の専門分野選びに読んだポリエコ(Political Economy, 政治経済学?)の実証の論文。ポリエコ面白いですね。
組閣を政党によるパイの分け合いとして捉え、政権与党内における各政党の議席比がどの程度交渉力に影響を与えるのか、各大臣ポストにはどれぐらいの価値があるのか、といった疑問を定量的に測る方法を提案するとともに、実際に日本のデータを使って実証分析した論文。

大臣ポストを割り当てられることで得られる利益があるとして、各大臣ポストから得られる利益の合計を1に標準化する。
政権与党内でその利益=パイをどう分け合うかというのがメインテーマになっている。そのため、基本的には各政党が得られる利益は(自政党が持っている大臣ポストの価値の合計)であると考えるのだが、パイの分割は[0,1]の任意の実数をとりえるので、実際にはside paymentがあるとする。分不相応なポストを得るためには他の政権与党にお金を払う必要がある的な。そうすることで、パイの分割がDiscrete ValueではなくてContinuous Valueで行われていると考える。
*これって本当にそうなんでしょうかね?実証する上ではそう考えるほうが都合がいいのはわかりますけど。

\beta\in [0,1^k ] を各大臣ポストの価値(Unknown Parameter)とし、 x_i\in \{ 0,1 \} ^k を政党iがどのポストを持っているかを表す変数(kはポストの数)、 \epsilon _i が政党iが受け取るSide Paymentとする。
このとき、政党iの受け取るパイの分割分は y_i=x_i\beta +\epsilon _i となる。Side Paymentは外生的に決まっており \sum \epsilon _i =0 を満たすとする。つまり、政党数をnとすると、n-1個の自由度がある。


その上で衆議院における議席比をGivenとしたもとで、Non-coperative Gameによる交渉を考える。
\omega_i を政党iの議席比とする。各政党にランダムに確率
h_i(\omega) =\frac{\omega _i exp(\alpha \omega _i)}{\sum \omega _l exp(\alpha \omega _l)}
でポストの割り当てを提案するターンが回ってきて、全政党が合意したら組閣成立、反対する政党がいたら同じようにランダムに提案ターンが回ってくるという交渉ゲームを考える。合意が形成されるまで無限に繰り返されるが、PayoffはDiscount Factor \delta で割り引かれるとする。
合意の形成までt回交渉が決裂したとすると、Payoffは \delta ^t y_i になる。
*このゲームが現実を反映しているのかには疑問が残る。Nash-Bargainingの方が自然なのでは?とも思う。ひょっとして同じなのかもしれない。交渉やゲーム理論には詳しくないのであまりよくわからない。手法の提示が本論分の目的のひとつであることと、あくまで近似的に現実を描写しているという意味では妥当なのかもしれない。

この交渉ゲームには(Payoffの値がという意味で)唯一のStationary SPE(定常的な部分ゲーム完全均衡)が存在する(らしい)。
*see Eraslan(2002)


推定すべきパラメータは \alpha, \beta, \delta あたり。 \alpha議席比がどう交渉力に影響するかを表すパラメータ。0の時には交渉力が議席比そのままになる感じ。
推定には、 \delta =0, \beta_1=1, \beta_j=0 というパラメータの値を除いたうえで最尤推定法を用いて、Bootstrapping Methodを計算に用いて推定している。
*最初のパラメーターのセットを除いたのは、総理大臣のウェイトが1で他の大臣は0、割引率が0というUninterestingな推定値を除くため。
**推定に関してはBootstrapping Methodをよく理解していないので、ざっくり。See Horowitz(2001)


推定値として面白いのは、 \alpha の値は0に近くて、交渉力は議席比に近いっていう点。
各大臣の価値も面白くて、
総理大臣 0.2630
国交相  0.0597
建設相 0.0583
あたりがトップ3で、
Public Safety 0.0144
Hokkaido Development 0.0210
Justice 0.0234
あたりがボトム3っていうところ。あと、外務省がしたから4番目っていう意外な低さっていうところですね。
国交相、建設相あたりは利権がいっぱいだから価値が高いっていうのは直感的にも納得な感じですね。

ゲームの部分はちょっと怪しいと思ったけど、結果自体はかなり直感的にも納得できるものなので、意外と正しい近似的なのかもしれません。