A dynamic oligopoly game of the US airline industry: Estimation and policy experiments

V Aguirregabiria, CY Ho 2009 Working Paper

航空産業における路線への参入・退出を動学ゲームとして構造推定した論文
論文の要点はテクニカルには二つ

  • ネットワークをState Variableにしたいが、次元が大きくなりすぎるという点を解決する
  • Counterfactualを見るときに、複数ある均衡からどれを選ぶべきかという問題を解決する

内容的にはひとつ

  • ハブ空港の参入障壁としての役割。というかハブシステムの役割を分析する

という感じ。実際の推定結果とかはあまりよく読んでないので、よくわからない。

状態変数の次元のリダクション

全米55大都市における路線ネットワークの構築を扱いたいが、都市間のネットワークの構築の仕方は膨大にある。全組み合わせをState Variableにして動学ゲームを構造推定したい。しかし、それはInfeasible。なぜなら、各航空会社が、全米55大都市間に路線を持っているかどうかを状態変数とすると、状態変数空間Xは、(ネットワークの組み合わせの数をM=55×54÷2、航空会社の数をN=22とすると)
 X=\{ 0,1 \} ^{55\times 54 /2 \times N} , |X|=2^{NM}\simeq 10^{10,000}
つまり、ナイーブにマルコフ戦略を定義すると、
 \sigma_i: X\rightarrow \{ 0,1 \} ^M
を考えなければいけない。(iは航空会社を表す)しかしこれは、
1.他のプレイヤーを所与としたとしても、最適反応の計算が複雑。チョイスが2のM乗個あるから。
2.そもそもXが大きすぎてIntractable
という問題がある。

そこで、元のゲームに仮定をおいて、Tractableなゲームに置き換える。


仮定1:
路線への参入・退出は、路線ごとに意思決定が行われる。

仮定2:
路線ごとの意思決定は、その路線を含むようなルート全ての利益を最大化するように決定される。


仮定1は、今まではN個(航空会社の数)の意思決定主体が存在していたが、それをNM個の意思決定主体がいるようなゲームに置き換えている。今までは、デルタ航空が、一元的にNY-ボストンをつなげるかと、シカゴとサンフランシスコを繋げるかを意思決定していたが、NY−ボストン間はそこにいるマネージャーが、シカゴとサンフランシスコ間はそこにいる別のマネージャーが別々に意思決定するということ。
つまり、新しいゲームでのマルコフ戦略は
 \sigma_{im}: X\rightarrow \{ 0,1 \}
となる。意思決定主体の数は増えるが、各意思決定主体は2個しかチョイスがないので、最適反応は計算しやすくなる。

仮定2についてだが、NonstopとOne stopしか飛行機のルートはないと仮定しているので、「NYとボストンの間のネットワークをつなげるかは、サンフランシスコとシカゴが繋がっているかによる影響をうけない」ということ。ただ、NYとボストンをつなげるかは、NYとシカゴがつながってるかには影響される。その意味で、自分の路線をつなげるかどうかの航空会社内での外部性は考慮している。
仮定2により、
 \sigma_{im}: X'\rightarrow \{ 0,1 \}
となる。XのサブセットX’を適切に選ぶことで、Tractableなゲームに再構成しなおしている。

つまり、航空会社の各都市間のネットワークをつなげるかどうかは、ネットワークの組み合わせ全体の部分集合にしか依存しないという仮定をおいて、状態変数空間が大きすぎるという問題を解決している。
本来のセッティングでは各航空会社が全路線に関して一元的な意思決定をするが、そこにある種限定合理性のような仮定を入れて、自分の路線の外部性は考慮するが路線ごとに独立した意思決定がされるようなモデルに置き換えて状態変数の次元を減らしているわけだが、つっこみどころは満載。

均衡選択

Counterfactualなパラメータの値の元でのOutcomeを観察したいとする。しかし、その仮想的な状況下では複数の均衡が存在しえるが、どの均衡が実現するかはアプリオリにはわからない。そのため、この論文では、仮想的なパラメータのもとでの均衡選択ルールを提示している。

ここで、均衡選択とは π:パラメータの値→CCP のことである。

πがスムーズ(Taylor展開ができるという意味で)だと仮定する。元のパラメータをθ、仮想的なパラメータをθ^*とする。すると、
 \pi(\theta^*)=\pi(\theta)+\frac{\partial \pi(\theta)}{\partial \theta} (\theta^* -\theta) +O(|\theta -\theta^*|^2)
とかける。推定したパラメータ値においては、
 \pi(\hat{\theta}) =\hat{P}=\Delta (Z,\hat{\theta},\hat{P})
が成り立つ。Δはポリシーファンクション。ここから、πのθに関するヤコビアンを求める。
それらをぶち込めば、Up to最後のビッグオーの項で正確な近似をすることができる。

その誤差項の部分が無視できない可能性もある。仮想的なパラメータの近傍でテーラー展開が正確であることを仮定すれば、上の作業+そこで得た選択確率をΔに繰り返しぶち込む作業でより正確な近似ができる。

結論・疑問

  • 元のセッティングでの均衡と新しいセッティングでの均衡の関係。

新しいセッティングでは航空会社内で各意思決定者間のコーディネーションの問題があるように思う。直感的に思ったのは、元のセッティングの均衡は新しいセッティングの均衡に含まれているのではないかと思った。そして、適切な均衡選択をすれば、新しいセッティングの均衡から元のセッティングの均衡を復元することができるのではないかとも思った。

この論文のSpecificationでは、元のゲームの均衡と新しいゲームの均衡の間には一般的にはなんにも関係がない。でも、ネットワークの構造をうまくつかって適切なSpecificationとModelingをすることで、ゲームの構造をTractableなゲームに変えつつも、両者の間に均衡の包含関係を保つことができそうにも思う。

それができれば、新しいゲームの均衡条件からIdentifyされるパラメータは元のゲームの均衡条件からIdentifyされるパラメータと一致するはずなので、Consistentな推定ができるはずである。

っていうことを数日真剣に考えたものの、なにも思いつかなかったです。

  • 実際の推定では、Aguirregabiria and Mira(2007)の手法を使っている。そのため、M個の市場全てで同じMPEが実現していると仮定しているのだが、この仮定は明らかに元のゲームの本質を損なっている。各ネットワークをつなげるかどうかには、コーディネーションの問題があるから。
  • πのスムースネスの前に、そもそも均衡がパラメータに関してスムーズなのか。

たとえば、あるパラメータのうえでは、どの選択も厳密に1より小さい均衡が複数あるが、その近傍の点ではチョイス1を確率1でとるような均衡しかないということはありえないのか?でも、誤差項に極値分布を仮定しているから、そこからスムースネスが保証されているような気もする。

  • 実証産業組織論って、結局ゲームの構造って全く推定に使ってないよなぁ。

ゲームの構造を推定にうまく生かすことができるような方法を考えたいと思った。特に、この論文とか、ネットワークの話って理論的には色々結論出てそうなのに、全く使ってない。