Strategic leniency and cartel enforcement
NH Miller - American Economic Review, 2009

アメリカでは1993年8月10日に司法省が、不法なカルテルや独占、談合において、最初に通報した人に対して寛大な処罰を与えるという新しいプログラムを導入した。
その効果を実証したのがこの論文。

スタンダードなゲーム理論的なアプローチでは、通報者に寛大な措置を取ることがどういう影響を持つかということに対して明確には答えられない。スタンダードなゲーム理論的な分析では、結果がモデルやパラメータに激しく依存しており、パラメータの値を事前に知らない以上、結果を知りえないことになる。

そこで、この著者は4個しかパラメータがない簡単なモデルを書いてそれを実際に実証した。
モデルはUnderlying Modelや、実際のプレイヤーのインセンティブを記述するというより、
1.業界に存在する企業の数
2.競争状態からカルテルに移行する確率
3.カルテルから競争状態に移行する確率
4.カルテルが発見される確率
という4個のパラメータと、状態の移行がマルコフ過程であるという仮定を置いて、(ある種の)ステディーステートの記述+そこから外生的なショックによりパラメータの値が変わったときの定常状態への移行過程の記述をする。
そこに外生的なショックがあった場合観察される結果のパターンを特定し、データがどのパターンにもっともよく当てはまるかをデータを使ってテストし、そこから外生的なショックがパラメータにどんな影響を与えたかを推定するというのがEstimation Strategyになっている。

ここでいう外生的なショックとはもちろんLeniency Programmのこと。

けっか、競争状態からカルテルに移行する確率は下がって、カルテルが発見される確率は上がったということがデータから言える。
つまり、Leniency Programはうまく機能したということだ。


Conclusionにも書いてあったけど、結局上のモデルでは単純すぎて、なんで外生的なショックが上のような結果をもたらしたかについては説明していない。だから、この効果が普遍的なものかを調べるためにはクロスセクションで他の地域の結果を比べるしかないと思う。
だから、他の国、たとえばヨーロッパ、日本、韓国でも同じような制度の導入が行われているので、日本で全く同じ実証してもそこそこ価値のある論文になるんじゃないかと思った。